子供教育の注意事項
目次
1.概念形成
私が自分で学習をする上で、最も注意しているのは、正しい概念を持つことです。当然ながら、これは私が人に教える上でも、最も重要視しています。私のブログの記事にも、繰り返しこの話が出てまいりますが、どのようなことなのか、ここで簡単にお伝えしたいと思います。
イメージと概念形成
人間は何かをやろうとするとき、ほとんど無意識に、途中の過程や結果について、事前に一定のイメージを形成しています。多少なりともそれがなければ、行動を起こすことができません。イメージが鮮明であればあるほど、行動は淀みなく、能率良くなります。
幼児は全く別です。彼等はまだ経験が無いので、過去の経験からイメージを形成することはできません。彼らの行動は、専ら経験を蓄えるための探索であり、好奇心だけをモーティべーションとする無鉄砲なものです。
言葉を話し始める頃になると、子供は自分のイメージをかなり持っています。言葉はイメージを伝えるためのものなので、当然ですが・・・
しかし小さい子供は抽象的なイメージを持てず、経験から構成できる具体的なイメージに限られます。それがモーティベーションとなった行動が、「〇〇ごっこ」などの遊びなのでしょう。
物語などを読んで、現実でない世界を想像できるようになると、彼らの思考は大人の知的活動に近づいてきます。そして経験を積むにつれて、想像は次第に、抽象する能力を育てて行きます。
例えば、買い物をする経験を重ねることにより、自分の欲する物の値段を知り、抽象的な「価値」という概念を体得します。
そして子供は、人々と概念を共有することによって、イメージを伝達することを覚え、次第に高度なコミュニケーション能力を獲得していきます。
学習における概念の役割
概念という言葉に対応する英語は「コンセプト(concept)」です。この言葉は今では日本語になっている感がありますが、もともとconceiveという動詞から来ています。
すべての言葉のルーツは動詞である、という学説があるそうですが、conceiveは「孕む、妊娠する」という自動詞です。つまりconceptは、心の中に芽生え、(時間をかけて)育ってきたものです。日本語化して使われている「コンセプト」とは、かなり異なります。
このことは、概念の習得・定着には一定の時間を要することを教えています。これは学習において、考慮すべき最も重要な点です。考察する対象が自然であれ社会であれ、学問的な情報は、様々な概念で組み立てられています。教える者と教わる者が、これらを共有し、その伝達のために適切なコミュニケーションを行わなければ、教育は成立しません。これは初等教育を含めた、すべてレベルの教育に当てはまります。
これは独学においても、あてはまります。著者と読者の間に概念の共有がなければ、学習は成立しません。学習とは、コミュニケーションです。
2.導入教育は慎重に
昨今ではスポーツから芸術まで、多くの分野で早期教育が盛んです。私たちのサロンPhysics Neverlandも、科学技術のジュニア育成を目標の一つに掲げており、これまで多くの御父兄から、お問い合わせを頂きました。
ただ私たちは、早期教育については慎重さが必要と考えています。これは前回の記事でお話しした、子供の概念形成と関係が深い問題です。
成長には個人差がある
前回の記事で、人が概念を獲得するには時間を要すると書きましたが、
精神的な成長は身体的な成長と同様に、個人差があります。
誰もが同じ時期に同じスピードで成長する訳ではありません。
成長の方向性も順序も、その時々でさまざまです。
子供は風船が膨らむように、等方的に成長する訳ではありません。
置かれている環境によっても、それぞれ違います。
例えば小学校での英語教育の導入については、当初は大きな議論がありましたが、
異なる言語は異なる構造を持つだけでなく、異なる概念によって組み立てられています。
言葉は幼少期に身に付けるのが最も自然な学習ですが、
それは必要な概念を、生活の中で自然に身に付けられる環境が前提になります。
生活圏が英語環境に無い状態で幼児期に英語学習を始めても、なかなかそのようにはなりません。
(英語の学習については「科目別アドバイス」のカテゴリーに幾つかの記事を掲載しています)。
概念不在の学習の危険性
自然科学の場合も、必ずしも教育は 「早ければ早いほど良い」 とは限りません。高度な科学的概念を理解するためには、一定の段階の精神的な成熟が必要です。
とくに日本では数学などで、関数の概念すら持たない幼児に微分積分を教え込む、というような、非常に危険な早期学習が見られ、私は大きな懸念を抱いています。
敢えて過激な言葉を使いますが、概念不在のまま、やり方だけを覚え込ませるのは、サルに芸を仕込むように子供を扱う、極めて乱暴な行為です。そのようなやり方は、子供の心を深く傷つけ、思考力の発育を阻害し、勉強嫌いや深刻な学習障害を招きます。
逆に、遅く始めることについては、殆ど心配はいりません。社会人経験を経てから大学に進学し、研究者の道を歩んだ人は少なくありません。いくつかの例を「読み物」のカテゴリーで紹介していますので、御興味のある方々はご覧ください(「回り道をした人々」のシリーズです)。
もちろん、遅く始めることを奨励している訳ではありません。早期に正しい学習を軌道に乗せることができれば、それが理想的です。ただ、すべての学習は、それまでの学習歴や年齢に合わせた適切なプラニングが必要です。とくに低年齢では、正しい概念形成が、最も基本的な要素です。
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