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研究職を目指す方々へ

理系の進学とキャリア

この記事では理系分野での進学と就職、その後のキャリアについて、参考になる情報を記載しようと思います。一口に理系と言っても様々ですが、国際化された世界では資格や雇用形態が統一されてきていますので、全体像をつかんでおくと良いでしょう。

 

目次

1.理系のパスポート

現在、日本のパスポートを所持していれば、世界中のどの空港でも客人として丁重に扱われ、私達は安心して旅をすることができます。
理系の世界はボーダーレスですが、ここでは国境を越える時に、別のパスポートが必要になります。

修士課程か博士課程か?

私はHomeのメッセージに、理系の学部を卒業した後、8割の人は大学院へ進学すると書きました。
さらに、理系を選ぶことは研究する人生を選ぶことである、と書いていますが・・・

ただ、大学院を修士課程で終えるか、博士課程まで進むかは、その後に目指すキャリアによって変わります。

企業の研究・開発を目指す場合は、修士課程で終える人々が多いようですが、今後、先端産業の研究・開発職では、次第に博士課程修了が標準になってくるでしょう。これから理系に進学する人々は、このような社会の変化に対応する準備が必要です。

ボーダーレスな国際社会では資格や基準が統一される方向に向かいます。将来的に日本の修士号は、ヨーロッパのディプロマと同等に扱われるようになると私は予想します。

ディプロマの学位は、学部の「正規卒業」の証明で、制度としては日本の「卒業研究」を拡大したようなものです。ただし、その水準はかなり異なります。

大学で学んでも単位だけ取得し、ディプロマを取得せずに終える人が多いのですが、ディプロマがあるか無いかでは、社会的な扱いが大きく異なります。もちろん、大学院(ヨーロッパの場合は博士課程のみ)に進むためには必須の資格です。

この資格を取得するためには、研究室に所属し、指導教官の指導を受けて研究に従事して、 Diploma Thesis と呼ばれる論文を大学に提出しなければなりません。

ディプロマ研究を開始できる条件は、非常に厳しいものです。私の知る範囲では提出された Diploma Thesis は、ほぼ日本の修士論文と同レベルです。英国は例外ですが、提出できるまでの就学年数も同程度です。つまり国際水準に合わせて行くと、日本の修士号をこれに相当させざるを得ません。


博士号の持つ意味

国際的に、アカデミックな研究機関への就職には博士号が必須条件です。日本でも50年昔から、ほぼそうなっていました。そして国境を越えて職を得る上で、博士号は世界の研究者のパスポートとして機能していました。

最近では、学問的な基礎研究から企業の開発の現場まで、理系の職場は相互の関連性と流動性を強めています。博士号は近い将来、アカデミックな世界だけでなく、先端技術分野の共通のパスポートとなる可能性が濃厚です。

現在、日本のパスポートを所持していれば、世界中のどの空港でも客人として丁重に扱われ、私達は安心して旅をすることができます。

同様に、幸いにも日本の博士号は、国際社会で高い信用度を保っており、理系人が安心して国際的に活躍できる環境が用意されています。




2.理系の研究職

研究職とは、どのような職業でしょうか? 理系だけに限っても、様々なタイプがあります。

アカデミックな研究職

学術的な研究職に就いている研究者は、研究を行い、成果を発表することが仕事です。発表は学会、国際シンポジウムなど、様々な段階で行われますが、最終的にすべての研究は論文として出版されることが前提です。

研究者は論文の数と質によって評価されます。それぞれの分野に、国際的に認知されている数多くの論文誌があり、論文は英文で書かれなければなりません。自然科学の基礎分野では、日本語の論文は業績としてカウントされないという慣習が、ほぼ出来上がっています。工学の分野などでは日本語の論文も多く出版されますが、同じ研究内容が英文誌にも同時に(あるいは少し遅れて)登場する場合がほとんどです。

国際的な専門誌は査読制度を設けており、投稿された論文は複数の専門家により査読されます。論文は査読者(レフェリー)に裁可されなければ、出版されません。なお、​​応用科学においては、論文の出版だけでなく、特許の出願・取得が重要な仕事の一つになり得ます。

職場の種類

◎ 高等教育機関の教員

学術的な研究職として、大学の教員(教授、准教授、講師、助教)は代表例です。 大学の役割は学問の推進ですので、大学では研究者の自主性に任されて研究が行われます。この自由度のため、大学教員は多くの研究者にとって、最も魅力ある職場となっています。

殆どの理系の大学には大学院が併設されており、大学院教育と研究は一体のものです。大学院生は指導教官の指導のもとに研究課題に取り組み、その成果は共著論文として、国際的な専門誌に発表されます。したがって教育職と研究職は同一の概念で、両者を区別して考えることは適当ではありません。

全国には、国公立・私立合わせて、理系の学部・大学院を持つ大学が、100程度存在します。日本は米国と並んで大学が多いと言われますが、理系に限ると、人口比での数はヨーロッパと変わりません。 また最近では、高等専門学校(高専)の教員も、大学教員と同様に、学術的な研究職としての色彩が強くなってきました。

◎ ​​国や自治体の研究所の研究員​

国や自治体が管轄する研究機関では、一般にプロジェクトにより研究が進められ、職制上の指揮系統がはっきりしています。​研究機関によっては、大学と同様に学問の推進を主な目的としていますが、教育と切り離された研究機関では、社会的な必要性に重点を置いて研究テーマが設定されています。

企業の研究職

​多くの大企業は、研究所を持ち、多数の研究スタッフを抱えています。

企業の研究活動は、最終的に製品開発に結び付く内容が基本です。しかし産業の高度化とともに、先端企業の研究活動は学術的な基礎研究との関連性を強め、学会で活躍する企業研究者の数は、この数十年間で飛躍的に増えました。

また、シミュレーションをはじめとする高度な科学計算の技術も企業活動の現場に浸透し、人的な交流も含めて、学術活動と技術開発が相補的に発展する状況が生まれています。

これらは全体として見れば、まだ一部ですが、その割合と成長速度は、一般に想定されているより遥かに高いものです。企業の研究者がノーベル賞を受賞する、というケースも、日本人に限っただけでも4人にのぼっています。



3.ポスドク(短期研究員)制度

ポスドクとは、ポスト・ドクトラル・フェロー(Post Doctoral Fellow)の省略形です。英語でもほぼ同様に「Pos. Doc.」と発音されます。

さすらいの研究者

かつて日本では、大学院で博士号を取得すると、大学の助手に採用され、教授のもとでさらに研鑽を積み、一人前の研究者に育つ、というのが一般的なアカデミック・キャリアの積み方でした。

現在では、若手研究者は大学院を修了すると、契約期間を区切られた短期研究員のポストを渡り歩きます。そして、しかるべき業績を積んだ人々が、正規の大学教員として採用される、という時代に変わってきました。
採用人事も、学会ごとの申し合わせや文部科学省の指導によって、最初から出身大学で正規の職を与えることはほぼ禁止され、公募による採用が原則となりました。

実は海外では、ずっと以前から、これが通常の形態でした。大学教授など研究機関のシニアなポジションに就いている人々は、政府に研究テーマを申請し、人件費を含む研究予算を獲得し、若い研究員を雇います。「ポスドク」とは、このような短期研究員のポストの総称です。

過渡期の日本には短期ポストが少なかったため、日本から海外のポスドクに応募するのが一般的でしたが、今では日本の研究機関にも短期若手ポストが導入され、海外から日本に応募する人も増え、双方向の時代となりました。


厳しいポスドク時代

ポスドクは民間企業で言えば非正規雇用であり、率直に言って、研究者のポスドク時代は薄給です。

年齢にスライドして昇給する研究機関もありますが、それはそれで問題が発生します。昇給のある研究機関では、人件費の抑制のため若い研究員を雇う傾向が強く、30代の半ばで契約が打ち切られることが殆どだからです。

また昇給の問題とは別に、この年代に差し掛かると、大学の正規教員に採用されることは一般に難しくなります。日本の大学等では年齢構成を考慮する伝統が強いためですが、新規採用に若い人を優先する傾向は、どの国でも変わりません。

したがってアカデミックなキャリアを積むためには、この年齢までに一定以上の業績を積んでいることが求められます。そして研究者は、企業も含めて様々な関連分野で仕事ができるように、学生時代から対応能力を高めておくことが重要です。

理系に有利な今後の雇用形態

現在、ネット上では、ポスドクの身分が不安定なことや、契約終了後の就職難など、この制度の否定的な側面がしばしば話題になっています。

しかし一方で、ポスドクの人々には、企業から熱い視線が向けられています。これは産業の高度化と強く関連しています。

アカデミックな研究職に比べると、企業の研究所等は待遇面で魅力があり、ポスドクを経て海外企業に就職する人々も多くなりました。また企業と研究機関との人事交流が盛んになり、企業から再びアカデミックな世界に戻る人々も少なくありません。

このような状況変化は、民間の雇用形態の変化ともリンクしています。現在、民間企業においては(日本だけでなく世界的に)、非正規雇用が増え続けています。この点の是非はともかくとして、今後は、アカデミックな世界の雇用形態と民間企業の雇用形態が近づき、研究者の世界での人事交流も、通常の転職の中に組み込まれて行くことが必然の流れです。

大変厳しい時代の到来のようにも見えますが、これは職種を問わず共通の流れであり、理系の人々にとっては、これはむしろ生き易い社会でしょう。先行している海外の実情をみれば、流動的な雇用形態は、選択肢の拡がりと研究職の市場開放を促し、待遇改善につながっています。職種と待遇のバランスを測ることにより、理系人にとって、職は得やすくなるでしょう。

そしてポスドク経験者は、理系人としての実力、国際感覚、人間力を形成するために、最良の経験を積んだ人々です。企業もそれを良く理解するようになりました。能力の高い研究者は、より良い条件を求めての転職も容易になり、研究職全体として、かなりの待遇向上が見込めると思われます。

そしてこれは、研究職の人々にとって、国際的なキャリア、また専門性の垣根を越えた対応能力が求められる時代の到来を意味します

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