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回り道をした人々2:N君の話(第2話)

第1話から続く

そっちの仕事はやらない

N君は成績優秀のため、2年次以降、授業料を全額免除されていました。が、貯金が底をつき、卒業後は大学院に進学せず働くと言っていました。すでに働きながらであり、卒業研究に入る時期には週2回しか来れなくなるということで、その条件で指導してくれる研究室を探していました。

「卒業研究で大学院修士と同じレベルのテーマをやらせてくれるところ」というのも、条件に付け加えていました。後に卒業研究のファイルを送ってくれましたが、確かに修士のレベルでした。

とび職に戻るのか、と尋ねると「そっちの仕事は、もうやらない」との答えです。

すでに亡くなった祖父の工務店は閉めており、入学する前から、フリーの手伝い仕事で繋ぐ生活を送っていました。工務店時代はあちこちの会社に請け負った工事費を踏み倒され、数千万円以上の被害に遭っていたそうです。

訴えるところはないのか、と聞くと、ややいきり立って、

「オレ達は食わなきゃならねえから・・・そんなことやってる時間はないんだ。大きな会社の、大学出た奴らは、こっちが何も出来ないことが解ってるから、踏み倒すんだよ」

そう言ってから、

「世の中、そんなことだらけだから、オレはいちいち気にしない。けど、オレみたいな目に遭っている人間は沢山いるから、オレ達の世界では、何も出来ない能無しの大卒を見つけると、よってたかって苛めて、潰すんだ・・・苛められて追い出されて、もう行く所がなくなる。そこまでやられるよ」

・・・と、恐ろしいことを言いました。

「先生の授業のレポートは、なかなかきついけど、これから逃げる奴らは、世の中のことを知らないから、逃げるんだな。あれじゃ必ず潰されるよ。 ニワトリと同じだからな・・・丸覚えで試験受けて、終わって3歩あるいたら、全部忘れてる・・・」

彼は大学院の修士まで勉学を続ければ、科学計算を専門とする会社で十分にやって行けると思えました。大学院でも入学金・授業料が免除され、返還免除の奨学金が受けられることも、ほぼ確実です。これから30年働ける会社もあるので、就職の世話をしても良い、と水を向けると、

「俺は爺さんと同じで、体を使って働く人間なんだ。机の前に座りっぱなしは性に合わない」

と、こちらも「そっちの仕事はやらない」とのこと。それでは勉強は辛かったか、と尋ねると、

「物凄く大変だった。大変だったけど、1人でレポートの問題を考えている時、こんな楽しい時間は無かった」

との答えでした。

 

動けなくなった時に死ぬ

彼はボイラー士の上級資格を取り、見張っているだけで十分な収入を得られる職に就く計画であると打ち明けました。合格者が殆ど出ない、年に一度の資格試験ですが、「大学の物理の勉強に比べたら何でもない」と笑っていました。彼は自分の学科の定期試験は、ほとんど常に満点だったのです。

見張ると言っても、ずっと目を光らせている必要はないので、勤務中に好きな勉強ができる・・・前からやりたかった生物物理の勉強をしたいと言って、すでに始めていましたが、「先生の授業で習った量子力学の知識で十分賄える」と喜んでいました。

「オレ一人、食えればいいんだ。老後は必要ない。体が動く間は働いて、動けなくなった時に死ぬだけだ」

「オレの親父もそうだったよ。死ぬ直前までマラソンしてた。しょっちゅう筋トレやっててさ、末期癌で痛いのを、筋肉痛だと思ってたな・・・」

教養科目ばかり履修する学生生活にうんざりし、1年次の秋に「馬鹿馬鹿しいからやめよう」と思ったが、後期の授業料を払ってしまった・・・

そこで、最後の学期と思い、題目とシラバスを眺め、多少は「まし」に思えた私の担当科目を、たまたま選んだ・・・そこで、初めてモーティベーションが湧いた・・・

修練を伴わない「お話し」を教養と見做さない私は、高校の復習を兼ねながら、ある程度体系的な力学の入門を行い、多少の添削指導も行っていました。最初は「教養の授業でレポートまで書かされるのか」と思ったそうです。

N君の言葉には、時々、私もドキリとさせる辛辣さがありましたが、彼の生きる覚悟は快く、「あの授業が無ければ、そのままやめていた。はじめて大学に入った意味があったと思えた」と言ってくれた言葉を、嬉しく思い出します。

N君を「回り道をした人々」に入れたのは、正しくなかったかもしれません。

彼の意識としては、寄り道だったのでしょう。

その寄り道で、N君は人生を豊かにすることを知り、新しい可能性を開いたのだと思います。

(完)

 
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