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科目別アドバイス(物理)

物理あれこれ3 物理は物語である


初回の記事では、「物理は単純な道を進む」と書きましたが、「どのような現象なのか」を説明することは、単純でも1つの物語と言えます。

物語であるので、「どのような式を立てるか」「どのように計算するか」と考える前に、言葉で語れなければいけません。次の例題で説明しましょう。


 例題: 「 天井から錘がバネで吊るされている。 錘を鉛直に

      引き下げて手を放すと、錘はどのような運動をするか」

 設問では「錘はどのような運動をするか」と漠然と聞いていますが、これは物理学の常識(というより決まり事)として、錘の位置を時間の関数として決定しなさい、そして運動の特徴を述べなさい、という意味です。

特徴を述べよというのも、また漠然としていますが、ここでは周期運動になること、周期と錘の質量やバネの強さとの関係を示すこと、また、気の付いた範囲でその他の重要な特徴(周期が振動の振幅によらないことなど)を述べることです。

これらの結論は良く知られていますが、そこに至るまでのストーリーを組み立てると、どうなるかを考えてみましょう。

まず絵を描きながら、事実を確認する


例えば次のような具合です。

 (1)錘は下方に重力を受ける(地球に引っ張られる)

 (2)同時に錘は、バネから力を受ける(フックの法則による)

 (3)合力は錘の質量と加速度の積に等しい(運動の法則による)​                               

その他にも、

 (4)静止している場合の錘の位置は、ばねの自然長の位置からずれている

​などと、気の付いた事を書いておくと良いでしょう。絵は、例えば下の様になります。           

                             

バラバラな事実を整理してストーリを組み立てる


次にストーリーを組み立てます。

バラバラな事実と言いましたが、上に書いた例では、(1)~(3)までが、すでにこの順番でしっかりしたストーリーになっています。ストーリーとして(3)の文章の意味するところは、錘はこの関係が常に成り立っているように運動する、ということです。

結末はまだ分かりません。結末を知るためには、(1)~(3)を式で表し、ばねの位置を時間の関数として求めなければなりません。これが最も簡単な道筋です。

そのために、言葉で書かれた内容をそのまま数式で表現します。別の記事に、数学は言葉であると書きましたが、それを思い出して下さい。そして、その前に・・・

登場人物の名前を決める


ストーリーには登場人物の名前が必要です。登場人物は測定によって数量化できるものに限られます。つまり、全員が何らかの物理量です。上の例では、(1)と(2)に登場した「錘にかかる重力」と、「バネから受ける力」の2つが登場人物です。しかしこの2人は脇役で、主役は「錘の位置座標」です。バネの伸び縮みを、符合を含めて「伸び」に統一すると、これが錘の位置座標になります。すでに図を描いた時に、名前まで決めて書き入れていますが、他の登場人物も以下に纏めておきましょう。

    ・錘の質量=m

    ・バネ定数=k   

    ・錘にかかる重力=mg  

    ・バネの伸び= x   

    ・バネから受ける力=- k x

錘の質量、バネ定数も登場人物です。このような登場人物は、すでに問題文で、名前を与えている場合が多いでしょう。

名前を決める、と書きましたが、「錘にかかる重力=mg 」としたのは、すでに次の段階に進み、(1)を式で表現したことになります(下向きを正としています)。

最後の「バネから受ける力=- kx 」も同様に、(2)をすでに式で表現しています。これはその前の「バネの伸び =x 」と連動しているので、少し注意が必要です。どこから測った伸びなのか、基準点をはっきりさせなければなりません。天井からバネの自然長だけ下がった位置を基準にするか、錘の静止位置を基準にするか・・・

とりあえずここでは、図に示したように、天井からバネの自然長だけ下がった位置を原点として、それからの「ずれ」を x としましょう。下にずれた場合を正としていますので、力は - kx で上向きになります。

そして、いよいよですが・・・

主役の行動を追う


主役にスポットをあて、その行動を追跡します。そのためには、ある程度の数学を必要とします。実は、このシリーズの最初の記事に述べたように、高等学校の物理では、なるべく数学を使わないようにしているため、ここで行き詰ります。そこで、まず本来はどのようにすべきかを述べましょう。

主役は錘の位置座標 x でした。その行動を知るとは、つまり位置座標を時間の関数 x(t) として定めることです。それには(3)を式で書き表し、x について解けば良いのです。これは、次のような x(t) に関する微分方程式になります。


左辺の2階微分が、錘の加速度です。​これを解いて x(t) を決めれば、どのような運動が起こるかが判り、物語が完結します。

高校物理では、上の式の左辺では微分記号を使わず、加速度を a として、ma と書いておきます。もともと、上の微分方程式を数Ⅲまでの知識のみで解くことは、やや難しいと言えます(不可能とは言いませんが)。運動方程式を解かないのであれば、高校では、どのように教えているでしょうか?

単純な道筋から外れることは、ある程度やむを得ません。すでに物理を学んでいる方々は、上のように x の原点をとると、簡単には解答にたどり着けないことを御存知かもしれませんね。この問題に解答する場合は、下の図のように、 x の原点の取り方を変えておくのが普通です。



とりあえずここでは、微分記号をそのまま用いて話を続けましょう。上の図のように座標の原点を選んだ場合、ばね​の伸びや錘がばねから受ける力は、x の関数として異なる表現になり、運動方程式は


に変わります。そして、静止状態の釣り合いの条件からが結論できるので、微分方程式は


と少し簡単になります。実際には、これは最初の運動方程式に、変数変換を施しただけです。見かけは少し簡単になりましたが、運動方程式を解く難しさは変わりません。

しかし見かけ上の違いは、侮れません。なかなか大きい影響があります。このように書き直すと、これは錘が下の図のように摩擦の無い床の上を水平に動く場合、つまり復元力が変位に比例するという単振動の運動方程式と一致します。


この図の場合にどのような運動になるかは、すでに習っていますから、これと対応させることで「解けた!」ということになります。加速度を微分記号で表す必要もなく、微分方程式であることを意識する必要もありません。


エピローグを書く


とりあえずこれで問題が解けた訳ですが、これで終わったと考えてはいけません。物理学では、計算を終えた段階ではまだ道半ばである、と良く言われます。物理は最後に合理的な解釈が出来なければいけません。

この記事の最初に、物理は物語であるので言葉で語れなければいけない、と書きましたが、多くの場合、式で書かれた内容は、幼稚園の子供にも分かるような言葉で説明できます。このような、謎解きのエピローグが必要です。

上の例題の場合は、

  「錘が下がり過ぎると、バネが伸びて上に引っ張るので、上に戻される。

  そして上がり過ぎると、バネが縮まって押し戻されるので、また下に

  下がる。これが繰り返されて、錘は上ったり下がったりする」

と言えば、子供でも解るでしょう。さらに、物理ではもう少し、内容を詳しく検討する必要があります。例えばバネの強さを強くしたとき(kを大きくしたとき)振動の周期はどのように変わるでしょうか?これも、上に書いたような「子供にもわかる説明」を試みてください。例えば、

  「バネが強ければ錘はすぐ引き戻されるので、繰り返しの時間は短くなる」

と言えば良いでしょう。錘を重くした場合は?  「重たくなると、なかなか引き戻せないので・・・」となります。

そして、このような適切な解釈を行えば、物理の場合、計算の間違いは自分で必ず発見できます。また、そのセンスを磨くことは、数学にも非常に役立ちます。例えば錘の質量を大きくすると周期が短くなる、というような計算結果であれば、それは子供に分かる説明とは異なりますので、どこかで計算違いをしているはずです。

ただし時々、子供には理解できないような、意外性のある結末に出会う場合もあります。相対性理論の「双子のパラドックス」は余りにも有名ですが、そこまで行かなくても、「振動の振幅を大きくしても振動の周期が変わらない」という単振動の特徴などは、一瞬「本当かな?」と思わせる例の一つです。このような意外な結論は、物語としても、サスペンス的な醍醐味があります。



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